ブライダル業界に蔓延る「協賛」という名のタダ働きの実態
今回はブライダル業界に携わっている人なら常識と言える「協賛」という名のタダ働きについて触れていきたいと思います。例えば結婚式場が提携業者に「普段から仕事あげてるんだからこのくらい協力してよ!」ということで様々な仕事を協賛という名目でお金を払うことなく働かせたり、無料で商品やサービス、設備などを提供する行為で、ブライダル業界ではほとんど常態化しています。最近は公正取引委員会も事態を重く受け止め、調査に乗り出しているようですがまだまだブライダル業界全体の体質が変わることはありません。しかし、結婚式場やプロデュース会社など仕事を提供する側も、相当な努力をして各業者のために新郎新婦に紹介しているわけで、ただ何もしないで仕事をもらっている業者には色々言いたいことも出てくるでしょう。本来結婚式場などは良い商品やサービスを作っているところと提携して、お互いが協力しながらさらに品質をブラッシュアップしていくことが重要になります。そうなれば仕事を提供する側にも「提携してあげている」という感覚ではなく「様々な選択肢の中で、うちを選んでくれている」という気持ちも芽生え、良いサイクルが回るはずです。つまり業者側も様々な努力をして複数の結婚式場に選ばれるようにならなければなりません。
目次
なぜ「協賛」という行為はダメなの?
ではなぜ協賛がいけないのか。仕事を与える側からすると、かなりの労力と費用をかけて集客して、各提携業者の商品やサービスをオススメしています。だからプランナーなど、仕事を提供する側からすれば「このくらい無料で手伝ってくれてもいいじゃん!」という気持ちになりやすいのですが、一体なぜ協賛を求めてはいけないのか?
最初に取り決められた契約書に記載されていない
最初の契約時にこれを無料で手伝う代わりに提携しますという条件なら話は変わってくるでしょう。例えばブライダルフェアを例にあげるとします。ブライダルフェアには毎回スタッフを派遣して新郎新婦に直接商品やサービスの説明をします。だからプランナーの手間も減りますし、受注率も上がります、商品クオリティもいいので提携させてください。という話ならそれは契約に基づいたものなので問題ないかと思われます。しかし、ほとんどの場合は契約時に交わしたものではなく、突然言い渡されます。業者としても仕事が来なくなるかもしれないリスクがあるので、要求を飲まざるを得ません。
そもそも違法行為である可能性が高い
ブライダル業界の協賛という行為は、独占禁止法の「優越的地位の濫用」や下請法の「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」に該当する可能性があると言われています。最近の公正取引委員会の動きからしてもケースによれども違法の可能性は高いと思われます。ブライダル業界は全体的に法的なリテラシーが低い業界なので、「他の式場や業者もやっているから」「業界では当たり前だから」といった理由で、多くの人が平然と協賛という名目で下請け業者にタダ働きさせています。
下請け業者がブラック化する
当然タダ働きさせるということは、相手に一切お金を払わずに仕事をさせることになるので、その会社の社員の労働量は増えます。最初はちょっとしたことを手伝ってもらうことから始まり、気がつけば協賛が常態化しているというのはブライダル業界ではよくあることです。結局下請け業者は疲弊していき、商品改善や開発努力ができなくなり、人件費も上げれないために社員も低賃金労働になり、人が離れていき優秀な人材も入って来なくなります。協賛という行為が企業のブラック化に直結するとは言えませんが、一役を担っていることは確かです。
実際にブライダル業界の事例で公開されているもの
公正取引委員会のWEBサイト上で公開されているものの一つに以下のようなものがあります。これもまた、協賛という名目で常態化している例の一つです。
違反事実の概要
(1)
日本セレモニーは,業として消費者から請け負う
ア 結婚式の施行に係るビデオの制作
イ 冠婚葬祭式の施行に係る司会進行,美容着付け,音響操作等の実施
を個人である事業者又は資本金の額が5千万円以下の法人である事業者に委託している(これらの事業者を以下「本件下請事業者」という。)。
(2)
ア 日本セレモニーは,平成26年5月から平成27年11月までの間,本件下請事業者の給付の内容と直接関係ないにもかかわらず,本件下請事業者に対し,前記(1)の下請取引に係る交渉等を行っている冠婚葬祭式場の支配人又は発注担当者から,おせち料理,ディナーショーチケット等の物品(以下「おせち料理等」という。)の購入を要請し,あらかじめ従業員又は冠婚葬祭式場等ごとに定めていた販売目標数量に達していない場合には再度要請するなどして,購入要請を行っていた。
イ 本件下請事業者(144名)は,前記アの要請を受け入れて,おせち料理等を購入した(総額3302万1500円)。
(3)
本件下請事業者は,おせち料理等の購入に当たって,日本セレモニーの指定する金融機関口座に購入代金を振り込むための振込手数料を負担していた。
勧告の概要
(1)
日本セレモニーは,本件下請事業者に対し,前記2(2)の行為により,本件下請事業者が購入したおせち料理等の購入金額から当該おせち料理等の飲食物に係る仕入原価相当額を控除した金額及びおせち料理等の購入に当たって本件下請事業者が負担した振込手数料を速やかに支払うこと。
(2)
日本セレモニーは,次の事項を取締役会の決議により確認すること。
ア 前記2(2)の行為が下請法第4条第1項第6号の規定に違反するものであること。
イ 今後,下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き,下請事業者に対し,自己の指定する物を強制して購入させ,又は役務を強制して利用させないこと。
(3)
日本セレモニーは,今後,下請法第4条第1項第6号の規定に違反する行為を行うことがないよう,自社の発注担当者等に対する下請法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講じること。
(4)
日本セレモニーは,前記(1)から(3)までに基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。
(5)
日本セレモニーは,前記(1)から(4)までに基づいて採った措置を取引先下請事業者に通知すること。
(6)
日本セレモニーは,前記(1)から(5)までに基づいて採った措置について,速やかに公正取引委員会に報告すること。
引用元 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/jun/160614_1.html
公正取引委員会の実態調査
最近では公正取引委員会も実態調査をはじめ、平成29年3月に実態調査報告書を公開しています。その中で、各業者からの具体的な回答を引用します。
納入業者からの具体的回答事例
[1] 商品・サービスの購入・利用の要請
ブライダル業者からイベントのチケットを購入させられている。チケットの購入に際しては,年間取引高に応じて,ブライダル業者から一方的に「お宅は○○万円買ってもらうから。」などと言われ,全く異論を差し挟む余地はなかった。
[2] 金銭・物品の提供の要請
ブライダル業者から,新聞広告の協賛金の提供を要請される。当社にどのような形で利益になっているのかは分からないが,仕方なく協賛金を提供している。
[3] 採算確保が困難な取引(買いたたき)
飲料を納入する複数の事業者と取引しているブライダル業者との取引の場合,納入価格は一番安く納入する事業者の金額に一律に合わせられてしまう。それぞれの納入業者の取引数量やブライダル業者に納入するための物流費は異なるはずだが,そういったものは一切考慮されずに一番安く納入する事業者の金額での取引を要請される。もう少し納入価格を引き上げてほしいが,値上げを言い出せば,取引がなくなるのは目に見えているため,我慢するほかない。
[4] 発注内容の変更(受領拒否を含む。)
結婚式に派遣する人材は,キリスト教式においては牧師,人前式においては司会者というように式のスタイルによって異なるところ,ブライダル業者から結婚式前日にキリスト教式ではなく人前式だったなどと連絡があり,一方的に牧師の派遣をキャンセルされることがある。前日のキャンセルなので,色々な準備をしており,費用が発生しているにもかかわらず,ブライダル業者からは準備に要した費用等は支払われない。
[5] 返品
新郎新婦の名前等を入れたオリジナル商品の場合,挙式・披露宴の出席者が予定よりも少なかったことを理由に返品されても処分するしかなく,当社にとっては不利益しかないが,今後の取引への影響を考えると,返品を拒否することはできない。
引用元 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/mar/170322_1.html
契約時に定められた内容ではない商品やサービスを要求する行為
例えば写真撮影を業務とした業者の場合、通常婚礼一件あたりの時間は7〜8時間です。契約時は多くの場合、この通常の婚礼を想定して契約されます。しかし、結婚式場の中には「この案件は新郎新婦が式場に来るところから撮影してほしい」「この案件は打ち合わせから同行してほしい」など、ケースによって様々な要求をしてくるところがあります。要求をすること自体に問題はないのですが、「工数が増えれば料金が発生する」という感覚がないので、無料でやってもらうことが当然となってしまうのです。業者側も、毅然とした対応を取るべきなのですが、提携が解消されてしまうことや、仕事を依頼してもらえなくなるリスクを恐れ、NOと言えなくなってしまっています。このような問題が司会、映像、メイクなどのあらゆる業者で日常的に起きているのが、今のブライダル業界の実情です。
今後ブライダル業界はどう対応していくべきか
必ずしも正解とは言えないと思いますが、一つの参考になればと思い、今後について考察していきます。
まずはビジネスの当たり前をきちんと学ぶこと
結婚式場に限らず、仕事を提供する側はパワーバランスでどうしても強くなってしまい、無理難題をパートナー企業や個人のフリーランスに要求しがちになってしまいます。しかし、タダ働きさせたり、安く買い叩いたりすれば誰でも簡単に利益は出せます。ビジネスで難しいのはきちんと法律やモラルを守りながら売上や利益をあげていくことですし、そこにやりがいや面白さがあります。だからこそ、しっかりとビジネスの当たり前を学ぶ必要があるし、勉強しなければなりません。
協賛がなければ利益を出せないのならば潰れるべき
協賛がなければ売上や利益が出せない時点で、その企業は世の中にとって必要ではないということです。ビジネスとは世の中に価値を提供して、その対価としてお金をいただくものです。違法行為をしてでも無理やり生き残ろうとするのであれば、そんな企業は世の中にとって害としかなりえません。したがって現時点で協賛がなければ成り立たない企業は一刻も早く改善すべきで、商品価値を高めてしっかりと価格以上のものをお客様に提供して対価を得る当たり前の仕組みを再構築する必要があります。
それぞれのスタッフにコスト意識を持たせること
結婚式場ならば各プランナーの教育で、コスト意識を徹底的に持たせることが必要です。なぜ費用がかかるのか、どれだけ費用が必要なのか、それをすればどれだけの売上や利益につながるのかなど、全てビジネスの基本ではありますが、それができていれば協賛という時代遅れの概念は生まれてきません。「特例や工数の増加、拘束時間の延長は費用がかかる可能性がある」という当たり前のことを意識させることが必要です。
下請け業者側も取引先を増やし、依存度を薄めていくことが必要
下請け業者側も理不尽な要求を飲まざるを得ない状況にあるという意味で、改善が必要になります。売上を少数の取引先に依存した状態では、提携解消になったときのダメージが大きい。だから言うことを聞くしかないと思っている業者も多いですが、それは企業努力を放棄しています。リスクはわかっているのですから、できる限り取引先を増やして売上を分散化させることが必要になります。
「口だけパートナー」ではなく、「本当のパートナー」になることを目指す
結婚式場などの仕事を提供する側は、例え実態は下請けでも提携している業者をパートナーと呼びます。業者側もただ仕事をもらっているだけの関係では文句を言うべきではありません。きちんとその式場に対して貢献する必要があります。商品価値をあげること、集客の手助けになるようなことを考えること、新郎新婦を紹介することなど、やり方は色々とあると思いますが、「協賛」というものにならないように、工数やコストを考えながら行っていく必要があります。
過去の違法である可能性が高い行為は公正取引委員会に報告する
告げ口しているみたいで抵抗があることだとは思いますが、ブライダル業界の改善を考えるのなら、各業者はどんどん気になる事例を公正取引委員会に報告するべきだと思います。公正取引委員会が改善の必要ありと認めて是正勧告を出せば問答無用で企業名、違反内容、勧告内容が公表され、企業の信用は失墜します。毎年数回事例が出てくれば、どの企業も即刻改善することでしょう。あまりイメージの良い策とは言えませんが、たぶんブライダル業界を改善するためには一番早くて効率的な方法であると思います。
ブライダル業界の未来について、それぞれが真剣に考える
結婚式を挙げることが当たり前の時代から、やらなくてもいい時代に変わった今、ブライダル業界は真剣にその在り方を考える必要に迫られています。婚姻届に対して結婚式を行う組数は半分以下になってきている理由の一つは、結婚式に価値を感じないためです。つまり業界全体が価値を伝える努力を怠った結果が今なのです。また、不透明な金額設定や都合の良いセールストークによって、ブライダル業界に対する不信感もかなり浸透してしまっています。一人ひとりが真剣にこれからのブライダル業界の在り方を考える時期に直面しているのです。参考までに私達なりにこれからのブライダル業界の未来について書いてある記事があるので、こちらもよろしければ御覧ください。ウェディング業界のこれから先の未来はどうなるの?
1985年生まれ33歳、東京都練馬区出身
日給1万円以下でアルバイトのビデオカメラマンとしてブライダル業界を経験し、結婚式場の販売価格と現場に払われる金額のあまりの差に疑問を持ち、一案件15000円〜40000円の下請け・孫請けの仕事で結婚式の現場に出ながらフリーランスとして活動を開始した。
25歳の時にFirst Filmというブランドで創業し、新郎新婦が自由な選択肢の中から好きなものを適正価格で選べるようになることを目指し、インターネットで直接選ばれる仕組みを構築。
売上は順調に伸び、2年後の27歳の時に株式会社VARIEを設立。写真や企業向け映像も事業として開始し、創業以来現在まで7年連続で売上最高値を記録。
現在はもう一つの会社、株式会社FOOLを立ち上げ経営の他にも現場の撮影をしながら講師業やコンサルタントとして活動中。